富山マラソン2022の前日の夕方、富山市総合体育館で受付を済ませて家に帰ったところ、一抹の不安がよぎった。今回は本当に練習不足で、過去の記録更新どころか正直完走できる自信がなかった。そんな自分を奮い立たせるため『懐かしい未来』(詞・曲:森山直太朗)という曲を聴いてみた。
この曲は前回の第100回全国高校サッカー選手権大会のテーマ曲で、歌手で女優の上白石萌音が歌っている。彼女の透明感あふれる歌声とどことなく壮大な曲調が弱気になっていた私をかなり勇気づけてくれた。そして「もう二度とない今を走れ」というフレーズを耳にし、これは頑張るしかないなと思い直して眠りについた。
マラソン当日の11月6日は清々しい秋晴れとなり、フルマラソンの部では12,671人が午前9時一斉にスタートした。私は最初の5㎞までは順調な滑り出しだったが、10㎞あたりでペースが落ち始め、中間点(新湊大橋)を超え27㎞付近から猛烈に足が痛み出し、35㎞手前で辛さのピークに達した。途中、何人もの県外(と思われる)ランナーが「立山連峰が綺麗だね」「ます寿司おいしかったね」などと語り合いながら私を追い越していった。今回の自分には、素晴らしい景色を眺めたりおいしい富山を味わったりする余裕すらなかった。
そんな時、私を追い越していったランナーのTシャツの背に記された「前を向いて進んでいけば 必ず道は開ける」という文字が目に飛び込んできた。昨年、本校の創校記念式の講演に来ていただいた磯野あずささん(元女子マラソン日本代表)が色紙に書いてくれた言葉だった。これには本当に勇気づけられた。必死の思いでゴールまでたどり着き、結果は5時間51分31秒(9,031位)。後半歩いた距離もあったが、諦めなくてよかったと思う。走るのは自分だが、周囲の励まし、音楽や言葉のもつ力を実感した今年の富山マラソンだった。