「五月雨(さみだれ)」という言葉がある。この五月は旧暦の5月のことで、五月雨は現代で言えば6~7月頃に降る雨、ちょうど今頃の「梅雨」の雨をさす(五月雨は夏の季語)。「五月(さつき)晴れ」という言葉も「梅雨」の晴れ間のことである。最近、あちこちで紫陽花(あじさい)を目にするが、五月晴れよりも五月雨の中で咲く紫陽花のほうがより鮮やかに目に映る。

 江戸時代、俳聖・松尾芭蕉も『奥の細道』の旅で「五月雨」をモチーフにした句をいくつか詠んでいる。岩手県平泉の中尊寺金色堂を前にして詠んだ「五月雨の 降り残してや  光堂」。山形で詠んだ「五月雨を 集めて早し 最上川」などだ。令和2年7月豪雨で、最上川が氾濫し大きな被害が出た。五月雨は「しとしと」と降り続くイメージがあるが、時に人々に大きな災い(水害や土砂災害)をもたらす。

 ところで、『五月雨』というタイトルの曲は実にたくさんある。古いところでは大瀧詠一、NSP、ふきのとう(いずれも70~80年代)。平成以降ではレミオロメン、崎山蒼志など(そう言えば櫻坂46の『五月雨よ』という曲もあった)。数ある『五月雨』の中で、私の一押しはELT(Every Little Thing)の『五月雨』(2004年のアルバム「commonplace」に収録)だ。

 この曲は、ELTの持田香織と伊藤一朗の2人が、筋ジストロフィーを患い入院していたELTの大ファンだったある青年と出会ったことがきっかけで生まれたという。この青年はELTの慰問から4ヶ月後、22歳で天国へと旅立った。この曲は、必死に難病と闘い若くして亡くなった青年への鎮魂歌であるとともに、いかなる境遇にあっても精一杯生きることの大切さや尊さを教えてくれる。ELTと言えば『Time goes by』や『fragile』を思い浮かべる人が多いかと思うが、一度『五月雨』も聴いてみてほしい。