小学校の卒業文集に将来の夢は「医者になってたくさんの人を救うこと」と書いた記憶がある。今思えば、当時夢中になって読んでいた漫画『ブラック・ジャック』(手塚治虫)に影響され、「医者」という職業に単純に憧れていた自分がいた。どこで進む道が変わったのか、「教員」という職業につき今日に至っている。この仕事を長く続けてきて、あながち教員の仕事の中にも医者の要素が含まれていると今ははっきり言える。
皆さんもよくご存知とは思うが、手塚治虫は学生時代、医学を学び医師免許を取得した。医者か漫画家か迷った末に漫画家としての人生を選んだ人物である。主人公の医師ブラック・ジャックは無免許でありながら、天才外科医としてどんな病気でも治してしまう(だだし、社会的地位の高い人やお金持ちの患者からは法外な医療費を請求する)。「医療と生命」をテーマとしたこの作品は、子どもたちだけでなく、その後も広く世の人々に読まれ続けてきた。
『ブラック・ジャック』が週刊少年チャンピオンに初めて掲載されたのが1973年。誕生から今年でちょうど50年、先日新作が発表された(手塚本人は1989年に60歳で亡くなっている)。作品のあらすじやアイディア、登場人物のデザイン案などを考えたのはなんと「生成AI」だとか。前回日記のタイトルである『NOW AND THEN』も、ジョン・レノンが生前デモテープに吹き込んでいた曲を生成AIの力を借りて、現代に蘇らせたものである。
数ある手塚作品の中で私の印象に深いのは、ヒトラーが実はユダヤ人の血を引いているという説をもとに描いた『アドルフに告ぐ』と、彼のライフワークであった『火の鳥』である。人の生き死に、業(ごう)や性(さが)というものを深く追究した作品だ。この度「不死鳥(フェニックス)」の如く蘇った『ブラック・ジャック』の話題を耳にし、あらためて手塚作品をじっくり読み返してみたくなった。